忍者ブログ

どんな顔をすればいいのかわからない

笑える話、泣ける話

みゆき

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

コメント

ただいまコメントを受けつけておりません。

みゆき

いつの頃からだろうか・・・
彼女がこのコンビニに来る様になったのは。

彼女は毎日同じ時間にやって来て、毎日同じ物を買って行く。
220円のサンドイッチと120円のフルーツジュース。
二つ合わせて、税込みで357円

無論、毎日同じ物を買って行く客は他にも沢山いる。
ただ、俺が彼女の事を覚えたのは、彼女がとても綺麗だったからだ。

俺は何度も彼女に話し掛けようとした。
でも、それは出来なかった。
俺はどう見てもさえないコンビニの店員で、彼女は誰もが振り返る様なとびっきりの美人。

相手にしてもらえるはずが無い。
だけどそんなある日・・・・。

「336円になります」
「あれ?!357円じゃないですか?」

ジュースメーカーのキャンペーンで、いつも120円のフルーツジュースは
その日から100円になっていたのである。

「このジュース今100円なんですよ」
「そうなんだ…ラッキー♪」

そんな些細な事でニッコリ笑った彼女は一段と綺麗だった。
それから俺と彼女は毎日話しをする様になった。


ある日、俺は偶然街中でみゆきを見掛けた。
彼女はその時、とある病院に入って行くところだった。

その時はたいして気にも留めてなかったが、後日、俺はその事を
みゆきちゃんに訊いてみた。

「この前病院で見たけど、お見舞いに行ったの?」
「うんん、ちょっと病気しちゃって…」

「そっか…それはお大事に」
「うん!!ありがとう」

元気そうなみゆきちゃんを見て俺は安心した。
たいした病気ではなかったのだろう。

ところが、それからしばらくした日、彼女は俺の目の前で
急にうずくまってしまったのだ。

俺はみゆきをアパートの部屋に連れて帰り
みゆきのかばんから薬を取り出し飲ましてあげて、とりあえず布団に寝かし付けた。
30分程するとみゆきは元気になり、いつもの様に話し始めた。


あの日結局みゆきちゃんとは何もなかったものの
あの日から、みゆきちゃんはよく俺の部屋を訪れる様になった。
彼女が俺の部屋に来た何度目かの時、俺は意を決し、心の内を彼女に打ち明けた。


「みゆきちゃん、俺は君が好きだ…」
「えっ!…」

「俺と恋人として付き合ってくれないか?」
「ありがとう、でもね…」

みゆきは話を続けた。

「私の「みゆき」は「美雪」って書くの。
 雪は触れるととっても冷たくて、すぐ溶けて無くなってしまうの。
 だから、雪には触れちゃダメなの。」

意味が判らない……。

「それは俺じゃ駄目ってこと?』」
「うんん!そうじゃないの!!でも、…少し考えさせて」

そう言って美雪は帰って行った。
残された俺は、一人、考え込んでしまった…


その次の日も、美雪はいつもと同じ時間にコンビニへやって来た。
気まずさを感じていた俺に、美雪は自分から話し掛けてくれた。

バイトを終え部屋に帰ると、美雪はすでに俺の部屋の前で待っていた。
その時の美雪の妙に思い詰めた様な顔が気になったのだが……。

「昨日、「好きだ」って言われて、私、本当に嬉しかったの。
 今まで男の人から「好き」って言われた事なんて一度も無かったからw 」

「そんな事は無いだろう ?
 美雪ちゃんはとても綺麗で、肌だってホラ、こんなに真っ白で……。
 俺なんかが見ると眩しいくらいで……。 」

「私の肌が白いのはね…、新鮮な血が体に行き渡らないからなの。
 私の手を触ってみて…。 」

「めっちゃ冷たい!!」
「でしょう…」

「はっ!」

咄嗟に俺は美雪の手を離した。
俺の手には美雪の手の冷たい感触が残っていた。

「大丈夫…本当に溶けたりはしないから…」

「私の手足はとても冷たいの。
 これはね、「血の巡り方が普通じゃないから」って教えてもらってる。 」

「それは…どうゆうことなの?」

「私は心臓に病気を持って生まれて来たの。
 普通の薬や手術では治せない病気なんだって。
 今まで何度も発作を起こして、何度も死んでしまいそうになって…。
 だから…、今でも発作を抑える薬を毎日注射してもらってるの。」

「発作が起きるたびに死にそうになって……
 それでも、今までなんとか生きて来て……
 でも、いつもお医者さんに「次の発作の時は命の保障は出来ない」
 って言われ続けてて……。
 こんな私だから、周りの男の子達はみんな私を避けていたの。 」

「私ね…、子供の頃から一度も走った事が無いの。
 ちょっとでも激しく動くと胸が苦しくなって、発作が起きそうになって。
 だから…、私は女として貴方を受け入れる事が出来ない…。
 もし結婚しても、子供も生めない…、赤ちゃんができないの…。
 そして…、明日にも、いつ死んじゃうかわからないの。」

「ごめんね…、 本当にごめんね…。
 本当は、もっと早く話さないといけないって私わかってた。
 でもね…、でもね…私も他の子と同じ様に恋がしてみたくて…。
 それにね…、それにね…
 貴方が…、貴方が…優しかったから……。」

「ごめんね…、ごめんね…、ごめんね…、ごめんね…。
 私、馬鹿だから…、本当に馬鹿だから…
 貴方の気持ちも考えられなくって…。
 貴方が「好き」って言ってくれた時、本当に嬉しくて…。
 でも、それで貴方にこんな私のわがままにつき合わさせちゃって。
 私には「恋をする資格は無い」ってわかってたはずなのに……。」

「だからね…、だから…だから貴方には…
 私の事は早く忘れて欲しいの。」

「ごめんなさい」

声を上げて泣きながら美雪が出て行ったドアを、俺はボーゼンと見つめていた。
何も出来ずに…、何も言えずに……。


それから俺は悩み続けた。
男と女として交わる事が出来ない美雪。
一度発作が起きると、命を落としてしまうかも知れない美雪。

三日間悩みに悩みひたすら美雪のことを考え続け、俺は心を決めた。
俺は美雪の為にこれからの人生を生きて行こう!!

「俺は美雪のそばに居られるだけで幸せだ。
 俺は力の限り美雪を守り続ける! 」


次の日、俺はバイトを休み、あの病院の前で美雪を待つ事にした。
あれから美雪は1度もコンビニへは来なかったが、ここで待っていれば
美雪に会えるはずだ。

しかし、その日美雪は病院へ来なかった。
その次の日も俺はクビを覚悟してバイトを休み、一日中病院の前で待ち続けたが、美雪は来なかった。
三日目の夕方、一人の看護婦が俺に声を掛けて来た。

「ここになにかご用ですか?」
「人を探しているのですが…」

「それはどなたですか?」
「美雪というんですけど…」

「ああ…その人なら…」
「よかった!!!分かりますか!!!!」

「六日前の夕方に緊急入院をされ、
 その日の内に お亡くなりになりましたよ…」

まさか美雪ちゃんが死んだ ?! ?!?!

美雪は再び発作を起こし、医師の懸命の処置にも関わらず
帰らぬ人となってしまったそうだ・・・

"雪は触れるととっても冷たくてすぐ溶けて無くなってしまうの"

「おれは手しか触れてないじゃないか…手しか!!!手しか触れてないじゃないか!!!」

俺が、答えの判りきっている事を悩んでいる間に、美雪は死んでしまっていた。
六日も前に…。

「!!!六日…?六日前って…
 あの日じゃないか !! 」

じゃあ…、あの後すぐに美雪は……。
俺は美雪を泣きながら死なせてしまったのか…。なんてことだ………

馬鹿だ!!馬鹿だ!!大馬鹿野郎だ俺は!! 大馬鹿野郎だ!!!!
何故、何故、何故あの時、美雪に……

「美雪ちゃんがどんな身体でも俺は変わらない!!」

そう…言えなかったんだ……。
この馬鹿野郎……。
……馬鹿野郎……
ばかやろおおおおおおぉぉぉぉぉ…………



……あれから半年が過ぎた
今も俺はこのコンビニで働いている。
そして、今でもあの時間になると、美雪がサンドイッチと
フルーツジュースを買いに来る様な気がしてならない…

そして…、独りでそっと呟く。

「ごめん…
 ジュース120円に戻っちゃった…
 100円じゃなくったんだよ
 ごめんね
 美雪ちゃん……
 ごめんね…」



PR

ゲーム売れ筋ランキング
本の売れ筋ランキング
家電・カメラ の 人気度ランキング
新着ランキングを見る
ほしい物ランキングを見る
人気ギフトランキングを見る
PR

コメント

最新記事

(12/07)
(11/17)
(11/08)
(09/25)
(07/30)

メールフォーム